【②会社員編】給与から引かれる税金と年末調整
日本で会社員として働く場合、税金の手続きは基本的に勤務先が代行します。毎月の給与から源泉徴収され、12月の年末調整で精算されるため、多くの人は確定申告をする必要がありません。
ただし「会社任せにしていると損をする」場面が、外国人にはいくつか存在します。本記事では2026年(令和8年)の最新数値とともに、押さえるべき実務ポイントを整理します。
課税範囲を決める「居住者区分」については ①総論編 をご覧ください。
1. 給与明細から引かれているもの 項目 内容 健康保険料 医療費の自己負担を3割に抑える 厚生年金保険料 老齢・障害・遺族年金の原資 雇用保険料 失業給付など 所得税(源泉徴収) 概算額。12月の年末調整で精算 住民税(特別徴収) 前年所得に基づく確定額。6月〜翌年5月の12回
所得税と住民税は性質がまったく違います。所得税は今年の所得に対する概算払い、住民税は前年の所得に対する確定額です。この違いが次の現象を生みます。
来日2年目に手取りが減る理由
来日初年度は前年に日本での所得がないため、住民税がかかりません。2年目の6月から住民税の徴収が始まり、手取りが月数千円〜数万円減ります。
給与が下がったわけでも、会社が間違えたわけでもありません。**制度上、全員に起こることです。**来日1年目の方は、2年目の負担を見込んで生活設計をしておくと安心です。
2. 給与所得控除(令和8年分)
会社員には、必要経費の代わりに収入に応じた概算控除が認められています。
2026年(令和8年)分から、最低保障額は74万円です。内訳は本則69万円に、令和8年・9年分限定の特例5万円を加えたものです。本則額は改正前65万円から4万円引き上げられました。
なお給与収入が69万1,000円以上220万円未満の場合、令和8年・9年分は改正後の計算表が適用されます。パート・アルバイトの方は、勤務先の給与計算システムが最新の表に更新されているか確認しておくとよいでしょう。
3. 基礎控除 — 2年連続の大幅引き上げ
物価上昇への対応として、令和7年・令和8年と2年続けて控除額が引き上げられました。令和8年分・9年分は、本則額に特例加算が上乗せされる二層構造です。
合計所得金額 基礎控除額(令和8年分) 489万円以下 104万円(本則62万円+特例42万円) 489万円超 〜 655万円以下 67万円(本則62万円+特例5万円) 655万円超 〜 2,350万円以下 62万円(本則のみ) 2,350万円超 段階的に縮小
本則が58万円から62万円になったのは、令和5年11月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数上昇率6.0%を反映したものです。今後は2年ごとに物価連動で見直される仕組みが導入されました。
特例加算は令和8年・9年分の時限措置で、令和10年分以後は対象が合計所得132万円以下、加算額37万円に変わる予定です。
給与明細に反映されないことに注意
特例加算分(42万円・5万円)は、令和8年11月までの毎月の源泉徴収には反映されません。精算は令和8年12月の年末調整でまとめて行われます。
毎月の給与を見て「控除が増えていない」と感じても異常ではありません。12月の還付でまとめて戻ってくる設計です。
4. 年収178万円の壁
基礎控除104万円と給与所得控除74万円を足すと、給与収入178万円までは所得税がかからない計算になります。
いわゆる「年収の壁」は次のように動いてきました。
年分 課税最低限 令和6年(2024)まで 103万円 令和7年(2025) 160万円 令和8年(2026) 178万円
ただし、これは所得税の壁です。社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が生じる基準は別に存在し、勤務先の規模や労働時間によって判定されます。「178万円まで働けば手取りが必ず増える」とは限らない点に注意してください。
5. 扶養に関する控除(令和8年分) 項目 要件・金額 扶養親族・控除対象配偶者の所得要件 合計所得62万円以下(給与収入のみなら136万円以下) 特定親族特別控除 19歳以上23歳未満の親族。所得に応じ3万円〜最大63万円 ひとり親控除 所得税35万円(令和9年分から38万円)/住民税33万円 勤労学生控除 学生本人の合計所得89万円以下 特定親族特別控除
令和7年に新設された制度です。大学生年代の子がアルバイト収入を得ても、扶養控除が一気に消えるのではなく段階的に減る仕組みになりました。
学生であることは条件ではない 配偶者と事業専従者は対象外 適用には「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要 6. 国外に住む家族を扶養に入れる場合
外国人会社員にとって、実務上もっとも注意が必要な論点です。
海外に住む親族を扶養控除の対象とするには、親族関係書類と送金関係書類の提出が必要です。加えて2023年(令和5年)分以降、30歳以上70歳未満の国外居住親族は原則として対象外になりました。
例外として認められるのは次の3つだけです。
留学により国外に居住している者 障害者 その年に38万円以上の生活費・教育費の送金を受けている者
母国の両親を扶養に入れている方は、**年齢と年間送金額を必ず確認してください。**とくに親が30歳以上70歳未満に該当する場合、送金額が38万円に届いていなければ控除は認められません。
送金は年末にまとめてではなく、送金記録が明確に残る形で行い、書類は必ず保管してください。
7. 年末調整の流れ 時期 内容 10月〜11月 保険会社から控除証明書が届く 11月〜12月 勤務先へ申告書と証明書を提出 12月 年末調整で精算(多くは還付) 翌1月末 源泉徴収票の交付 主な提出書類 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 給与所得者の保険料控除申告書
基礎控除申告書では、自分の合計所得の見積額に応じて金額(62万円・104万円など)を選択して記入します。ここで記入した区分は配偶者控除の判定にも連動するため、適当に書くと配偶者控除の計算まで誤ることになります。
8. 会社員でも確定申告が必要・有利になるケース 必要な場合 給与収入が2,000万円を超える 給与以外の所得が年20万円を超える(→ ③フリーランス・副業編) 2か所以上から給与を受けている 年の途中で退職し、年末調整を受けていない 非永住者で、課税対象となる国外源泉所得がある(→ ①総論編) 申告したほうが有利な場合 医療費控除 — 年間10万円(または所得の5%)超の部分 寄附金控除 — ふるさと納税でワンストップ特例を使わない場合 住宅ローン控除の初年度 — 2年目以降は年末調整で処理可能 年の途中で退職し、その後就職しなかった
還付申告は翌年1月1日から5年間提出できます。3月15日にこだわる必要はありません。過去に見落としていた控除があれば、さかのぼって請求できます。
9. よくある質問
Q. 会社が年末調整をしてくれれば、何もしなくてよいですか。 A. 多くの場合はそうですが、医療費控除、ふるさと納税、国外居住親族の扶養控除などは年末調整で処理できないか、追加書類が必要です。
Q. 転職した年はどうなりますか。 A. 前職の源泉徴収票を新しい勤務先へ提出すれば、まとめて年末調整されます。年内に再就職しなかった場合は自分で確定申告します。
Q. 副業の収入が年15万円あります。 A. 給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要です。基準が異なるため申告漏れが起きやすい論点です。
Q. 源泉徴収票をなくしました。 A. 勤務先に再発行を依頼してください。確定申告書への添付は不要になりましたが、記載内容の転記に必要です。
次に読む ③フリーランス・副業編 — 確定申告、経費、青色申告、消費税 ④出国・帰国編 — 納税管理人、住民税の1月1日ルール、年金の脱退一時金
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