【④出国・帰国編】日本を離れるときの税金手続き
帰国や海外転勤で日本を離れる際、多くの人が「出国すれば納税義務も終わる」と考えます。これは誤りです。
日本の税制では、出国後も納税義務が残る場面が複数あり、しかも手続きの順序を間違えると取り返しがつかないものがあります。とくに年金の脱退一時金の還付は、出国前に手を打たなければ数十万円を失うことになりかねません。
本記事は、出国の3か月前から順に確認できる構成にしています。
課税範囲を決める居住者区分については ①総論編 をご覧ください。
1. なぜ出国後も納税義務が残るのか
理由は2つあります。
① 所得税 — 出国する年の1月1日から出国日までに得た所得には、当然に所得税がかかります。会社員なら年末調整を受けずに退職するため、精算が済んでいません。
② 住民税 — 前年の所得に対して課税される仕組みのため、出国時点で「まだ払っていない前年分」が残っています。
この2つを、出国前にどう処理するかが本記事のテーマです。
2. 住民税の「1月1日ルール」
住民税は、その年の1月1日時点で住所のある自治体が、前年1月〜12月の所得に対して課税します。
つまり、
1月1日に日本にいた → その年度の住民税は前年所得に基づき全額課税される 年の途中で出国しても、この納税義務は消えない 具体例
2026年3月に帰国する場合:
対象 課税の有無 2026年度住民税(2025年の所得分) 2026年1月1日に日本にいたため全額課税 2027年度住民税(2026年の所得分) 2027年1月1日に日本にいないため課税されない
2026年度分は、6月から翌年5月にかけて納付する予定だった全額を、出国前に一括で納めるか、納税管理人に引き継ぐ必要があります。
出国時期による違い
12月中に出国して転出届を出せば翌年1月1日に住所がないため、翌年度の住民税は課税されません。1月2日に出国した場合は課税されます。わずか数日の差で1年分の住民税が変わるため、出国時期を選べる立場なら考慮に値します。
3. 納税管理人の選任
出国後も日本での税務手続きを代行してもらうため、納税管理人を選任できます。所得税と住民税で手続きが別なので、両方必要です。
対象 提出先 書類 所得税 所轄税務署 所得税・消費税の納税管理人の届出書 住民税 市区町村役所 納税管理人申告書(自治体により名称が異なる) 誰を選任できるか
日本国内に住所または居所を有する個人、または国内に事務所等を有する法人であれば、資格の制限はありません。
日本に残る友人・知人 元の勤務先(会社が対応してくれる場合) 配偶者や親族 税理士
引き受ける側の負担は、書類の受け取り・転送と、必要に応じた納付の代行です。事前に本人へ説明し、了承を得てから届出してください。
提出のタイミング
出国前に提出することが必須です。出国後に気づいても、以下の手続きが取れなくなります。
4. 出国前に済ませる所得税の手続き 選択肢A:準確定申告(出国前に申告を済ませる)
出国日までに、その年1月1日から出国日までの所得について確定申告を行います。控除は出国日までの分で計算されます。
選択肢B:納税管理人を選任し、通常どおり翌年申告
納税管理人を届け出れば、翌年2月16日〜3月15日の通常の申告期間に、1年分をまとめて申告できます。
一般に選択肢Bのほうが有利です。理由は、その年の所得控除(社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除など)を年間ベースで適用できるためです。とくに年の後半に出国する場合、差は小さくありません。
会社員が年の途中で退職する場合
退職時に会社は年末調整を行いません。源泉徴収税額は概算のままなので、多くの場合確定申告により還付が生じます。源泉徴収票を必ず受け取ってから出国してください。
5. 年金の脱退一時金 — 手続きの順序が重要
日本の年金に6か月以上加入した外国人は、出国後2年以内に脱退一時金を請求できます。厚生年金の場合、最大60か月分が対象です。
20.42%が源泉徴収される
脱退一時金には、支払時に20.42%の所得税が源泉徴収されます。100万円の一時金なら約20万円が差し引かれます。
還付を受けるには
出国前に納税管理人を選任していれば、脱退一時金の支給決定通知書を受け取った後、納税管理人を通じて確定申告を行い、この源泉税の還付を請求できます。多くの場合、ほぼ全額が戻ります。
逆に、納税管理人を選任せずに出国すると、この還付を受けられません。
正しい順序 ① 出国前 — 納税管理人の届出書を税務署へ提出 ② 出国 — 転出届を提出(住民票を抜く) ③ 出国後 — 日本年金機構へ脱退一時金を請求 ④ 支給決定通知書が届く ⑤ 納税管理人が確定申告 → 源泉税の還付
①を飛ばすと⑤に到達できません。出国前にできる唯一の手続きが、最も金額の大きい還付を左右します。
なお、脱退一時金を受け取るとその期間の年金加入記録は消滅します。将来日本に戻る可能性がある方や、社会保障協定の対象国(母国での年金加入期間と通算できる制度)の方は、請求しないほうが有利な場合もあります。
6. 資産のある方が確認すべき制度 国外財産調書
その年12月31日時点で、価額の合計が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する義務があります。
出国により非居住者となれば対象外ですが、出国前の年分については提出義務が残る場合があります。
国外転出時課税(出国税)
1億円以上の有価証券等を保有する一定の居住者が日本を出国する際、含み益に対して所得税が課される制度です。対象は、過去10年以内に日本に5年超居住していた人に限られます。
多くの一般的な在留者には該当しませんが、株式・投資信託の評価額が大きい方は事前確認が必要です。納税猶予の特例(納税管理人の届出が要件)もあるため、該当しそうな場合は早めに税理士へ相談してください。
7. 個人事業主の追加手続き
フリーランス・個人事業主として活動していた方は、以下も必要です。
書類 提出先 期限 個人事業の開業・廃業等届出書 税務署 廃業後1か月以内 青色申告の取りやめ届出書 税務署 翌年3月15日まで 事業廃止届出書(消費税) 税務署 速やかに 適格請求書発行事業者の登録の取消し 税務署 該当者のみ
事業用の銀行口座を閉じる前に、還付金の受取口座をどうするか決めておいてください。日本国内の口座がないと還付金を受け取れないため、納税管理人の口座を指定するか、還付が終わるまで口座を維持する必要があります。
8. 出国前チェックリスト 3か月前 納税管理人を依頼し、了承を得る 国外転出時課税の該当有無を確認(資産1億円以上の方) 社会保障協定の対象国か確認(脱退一時金を請求すべきか判断) 1か月前 「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を税務署へ提出 市区町村へ住民税の納税管理人を届出 住民税の残額を確認し、一括納付か引継ぎかを決定 個人事業主は廃業関連の届出 出国直前 勤務先から源泉徴収票を受け取る 市区町村へ転出届を提出 還付金の受取口座を確保(納税管理人の口座または自分の口座を維持) 年金手帳・基礎年金番号の控えを保管 過去の確定申告書控え、送金記録を保管 出国後 日本年金機構へ脱退一時金を請求(2年以内) 支給決定通知書を納税管理人へ転送 納税管理人経由で確定申告(翌年2月16日〜3月15日) 9. よくある質問
Q. 帰国後に住民税の納付書が届きました。無視するとどうなりますか。 A. 延滞金が発生し、日本国内に財産があれば差押えの対象になります。また未納は在留資格の更新・変更審査で不利に働くため、再来日を予定している方はとくに注意が必要です。
Q. 短期の海外転勤で、いずれ日本に戻ります。 A. 出国期間が1年未満の予定であれば、原則として居住者のままとして扱われます。1年以上の予定なら出国時から非居住者となります。家族が日本に残るかどうかも判断要素になります。
Q. 出国後に日本の不動産から家賃収入があります。 A. 非居住者の国内源泉所得として課税されます。賃借人が支払時に20.42%を源泉徴収する義務を負う場合があり、確定申告により精算します。この場合、納税管理人の選任は事実上必須です。
Q. 納税管理人を頼める人がいません。 A. 税理士に有償で依頼できます。脱退一時金の還付額が大きい場合、報酬を払っても手取りが増えるケースが一般的です。出国前に契約しておいてください。
Q. 転出届を出さずに出国してもよいですか。 A. 住民票が残ると、居住実態がないのに住民税が課税され続ける、国民健康保険料が発生し続けるなどの問題が生じます。必ず提出してください。 シリーズ一覧 ①総論編 — 居住者区分、課税範囲、租税条約 ②会社員編 — 給与所得控除、年末調整、扶養控除 ③フリーランス・副業編 — 確定申告、経費、インボイス ④出国・帰国編(本記事)
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